注文住宅で家を建てる際、鉄筋コンクリート住宅と木造住宅のどちらにしようかと頭を悩ませる方も多いのではないでしょうか。
それもそのはず、コンクリートと木材という全く異なる素材で家を建てるわけですから、当然それぞれの素材で家を建てるメリットとデメリットが存在します。
もともと日本では木造住宅が主流だったため、木材で家を建てることのメリットやデメリットは多く世に発信されている一方で、鉄筋コンクリート住宅に関する情報は真偽の疑わしいものが錯綜しているのが現状です。
こうした真偽の疑わしい情報は、木造住宅のハウスメーカーで鉄筋コンクリート住宅で家を建てようか悩んでいることを営業マンに告げると次々と飛び出してきます。
- 冬場とにかく寒い
- 身体に悪い
- 早死にする
こうした鉄筋コンクリート住宅に関するデメリット(ネガティブ)情報は、木造住宅のハウスメーカーの営業の殺し文句として用いられています。
「コンクリート=寒い」「木=暖かい」というイメージを抱く方は多く、この鉄筋コンクリート住宅のデメリットはそのイメージにマッチしていることから住宅市場ではかなり浸透した情報となっています。
しかし、この鉄筋コンクリート住宅最大にして最悪なデメリットの根拠を調べてみると、「鉄筋コンクリート住宅は身体に悪い」といった事実は存在しないという結論にたどり着くことができます。
ここでは住宅市場で発信されている「鉄筋コンクリート住宅は寒くて身体に悪い」という情報について、そのように言われるようになった根拠と、情報の真偽についてお伝えしていくことにします。
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鉄筋コンクリート住宅は寒くて身体に悪い
実は「鉄筋コンクリート住宅は身体に悪影響を与える」と言われるようになってしまったことには、科学的な根拠が存在します。
その科学的根拠こそ、静岡大学農学部教授たちが発表した次の論文です。
A Biological Assessment of Dwelling Ability of Building Materials :
Comparison of Growth and Reproductive Performance of Mice Housed in Wooden, Metal, and concrete Cages
著者:伊藤晴康 他
この論文は、論文検索サイトAgriKnowledgeで検索、閲覧することができます。以下、この論文を引用しながら、まずは内容を紹介していきます。
行われた研究の内容
ここで、当論文を分析するにあたり、まずは行われた実験内容について紹介します。
生まれて3週目のマウスを、以下の異なる材質(大きさ11cm×17cm×30c)の各ケージ(箱)にて飼育し、各材質の居住性について評価を行う。
- 木製(ヒノキ)
- 鉄筋入りコンクリート
このケージを各10個ずつ用意し、温度・湿度・照明を調節せず、観察する。マウスは1ケージあたり2匹ずつ飼育し、実験期間は、1986年4月10日~同年7月13日。この期間において、ケージ中でオス、メス(第1世代)を一緒に入れ、交尾させた後、生まれてきた子マウス(第2世代)の生物学評価を行う。
以上が、この実験の概略になります。
続いて、この実験により、得られた結果と評価を紹介します。
実験の結果
該当論文では摘要について、次のようにまとめられ、各種居住性の評価としています。
実際に、生まれてきた子マウスの23日間の生存率は次の通りだったようです。
- 木製ケージ → 85.1%
- 金属製ケージ → 41.0%
- コンクリート製ケージ → 6.9%
この結果を見ると、確かに鉄筋(コンクリート)住宅は身体に悪影響を与え、子どもにとっても健康を阻害する恐れがあると感じてしまいます。
木造と鉄筋コンクリートに対する評価
繁殖した子マウスの生存率での有意差から、当該論文では木製と鉄筋コンクリート製の住宅としての性能を次のように評価しています。
そして、この論文を根拠に木造住宅のハウスメーカーでは、鉄筋コンクリート住宅はその材質の持つ特性から人体に悪影響を及ぼすと結論付け、鉄筋コンクリート住宅は寒さから住む人の身体に悪影響を与えるため、止めたほうがよいという批判を繰り広げている現状があるわけです。
コンクリート住宅への批判論文に対する疑問点
しかし、この論文を細部まで読んでみると、いくつか疑問を抱く内容が浮かび上がってきます。
「鉄筋コンクリート住宅は寒く、身体に悪い」と言われたことで、鉄筋コンクリート住宅をあきらめようとしている方には、ぜひ論文の次の部分に着目してから結論を出してほしいと思います。
この論文をじっくり読むことで感じた疑問点は、次の3つです。
- 子マウス生存率は、温度差の影響に過ぎない
- 木製ケージにもデメリットがある
- 研究が木材共同組合の補助金により行われている
これら3つの疑問点は、鉄筋コンクリート住宅のデメリットの真偽に迫る本質的な部分になります。
一つ一つ論文の内容を確認しながら、分析してみることにします。
疑問1:子マウス生存率は、温度差の影響に過ぎない
子マウスの生存率には確かに大きな有意差が見て取れます。
しかし、ここで注目したい情報があります。
それは、当該論文の実験が行われた時期が4月~7月の春先だったのに対し、同様の実験が7月~9月の夏場と10月~12月の冬場にも行われていたことです。
このことはあまり知られていない情報です。
「建築ジャーナル」には、有馬孝豊東京大学大学院教授が当該論文と同様の実験を別時期に実施された結果が掲載されています。
その記事によると、夏場と冬場のマウス実験では次のような結果になっていることが分かりました。
- 7月~9月の夏場 → 各材質による健康状態の有意差が見て取れなかった。
- 10月~12月の冬場 → 各材質で親・仔マウスとも全滅してしまった。
さて、皆さんは、このあまり知られていない残りの2回の実験結果を見て、何を感じますか。
当該論文と違う時期に行われた実験結果を見る限り、結局マウスの生存率は温度による差が大きく影響しているという結論にたどり着くのではないでしょうか。
そうした観点で当該論文の実験を見直すと、かなり不自然な点に気付きます。
それは、コンクリート製の飼育ケージのみとても分厚く作ってあることです。
当該論文の実験では、木製ゲージは18㎜の厚さで作られているのに対し、コンクリート製ゲージは31㎜という厚さになっています。
それぞれの材質の特徴として、木製は厚ければ厚いほど保温性が高まる一方、コンクリート製は厚くなればなるほど外気温の影響を受けることが知られています。
こうした実験の時期やケージの作り方に、結論を意図的に操作しようとした痕跡を感じ取ってしまいます。
疑問2:木製のデメリットが強調されていない
当該論文での実験では、出産後の子マウスの生存率は、確かにコンクリート製ケージの値が著しく低いことが読み取れます。
しかし、論文内で強調されていませんが、実は出産率と直後の仔マウスの死亡数は木製ケージが高くなっていることが確認できます。
- 木製:生存した子ネズミ…89匹/死亡した子ネズミ…5匹
- 金属:生存した子ネズミ…130匹/死亡した子ネズミ…1匹
- コンクリート:生存した子ネズミ…105匹/死亡した子ネズミ…0匹
このように、出産直後に死亡した数を率に換算すると、木製ケージは5%以上の仔ネズミが急死し、さらに、そもそもの妊娠数も木製ケージ内のマウスが低くなっています。
これが統計学的な有意差にあたるのかまでは分かりかねますが、当該論文ではこのような木製ケージのネガティブデータについては摘要でも全く触れられておらず、あくまでコンクリート製ケージのネガティブデータを前面に押し出し、鉄筋コンクリート住宅の居住性の低さをアピールする結論となっています。
疑問3:研究が木材組合の補助金で行われている
最後に、当該論文最大の疑問点を述べます。
それは、この論文が木材組合の補助金で行われたことです。この点については、当該論文最後の謝辞にその事実が記載されています。
こうしたある特定の商品(この場合は鉄筋コンクリート住宅という商品)のデメリットを科学的な根拠をもとに展開する場合は、あくまで公平性が望まれるのは当然のことです。
それが、この論文からは全く感じることができません。
「鉄筋コンクリート住宅は寒く、人体に対し悪影響を及ぼす」ということが科学的に示されるのであれば、当然木造住宅メーカーにとっては大きな批判材料になるわけで、大きな恩恵を手にすることができることも想像に容易いです。
そうした恩恵を与えるために意図的に行われた実験なのではと想像してしまいます。
鉄筋コンクリート住宅デメリットのツボ
さて、あなたは、当該論文をどのように評価しますか。
少なくともこの論文を根拠にして「鉄筋コンクリート住宅は寒くて身体に悪影響を与える。」「住むと早死にする。」といった結論を導く出すことは困難であると感じていただけたのではないでしょうか。
もし木造住宅の営業マンにこうした鉄筋コンクリート住宅に関するネガティブ情報を聞かされた場合は、ぜひその根拠をしっかりと確認してみてください。
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